近づきすぎた羞恥心とアイディアが閃いた興奮で全身を熱くして、きゅうりに向き直る。
「今年の4月か5月、青山さんが貰った契約が、健康診断の結果で2年後になった件があります」
青山と聞いて、驚いていた表情が一瞬で仕事モードに切り替わった。さすが、やっぱり営業は営業だな、とちらりと考える。
きゅうりが体ごと私の方を向いて頷いた。
「春先だな。うん、それで?」
「それは他社攻略で、お客様はうちの商品をかなり気に入って下さっていたようで、契約できなかったことを大変残念に思ってらっしゃいました。青山さんが何度も本社に電話したり、どうにか出来ないかと調べたりを手伝ったのでよく覚えています」
2年後とは。
生命保険の契約で、2年後判定といえばつまり「今は引き受けできないから、2年後にまたやってみて」という結果で、要するに、引き受け不可ってことだ。
病気を現在進行形で持っていたり、過去に大きな病気をしていたり、健康診断の結果、これから重大な病気になりそうだと会社が判断した時などに出る、営業にも契約者にも厳しい結果である。
人間は年をとるから、2年後にはその状態は更に悪くなっているのが普通である。
それに契約年齢も上がるので、毎月の保険料も大きく変わるため、もし2年経って健康を取り戻せていたとしても、再度契約しよう、とは通常ならない。
2年後判定が出た、ということは、心砕いて努力して信頼を得、やっと契約まで漕ぎ着けたお客様との決別にも等しいのだ。



