トマトときゅうり



「・・・大丈夫、だから、トマト」

「うううっ・・・本当にすみません~」

「うん」

「でもやっぱもう一回くらい呪文かけときますね!痛いの痛いの~・・・」

 くくくっ・・・と笑い声が聞こえた。目の前にあるきゅうりの口元がひゅっと釣りあがる。

 え。あら?どうして笑うのよ。

 私は目を上げて、そこで綺麗な両目とバッチリあってしまった。

 ぎゃあ。

 そういえば!まだ腰に手が!!ようやく気付いて最速でババッと離れる。

「・・・おお?おまじないは途中でお終いか?」

 にやにや笑いながらきゅうりが言うのに、私は悔しくて唇をかみ締めた。

「お、お終いです!もう、真剣に謝ってるのに、笑うから!」

 抑え切れないらしく、まだ笑いながらきゅうりが車のロックを外す。

 私はぷりぷりしていたけど、そういえばコケるのを助けてくれたんだった、と思い出した。

「・・・楠本さん」

「うん?」

 運転席に滑り込みながら、まだ楽しそうな顔できゅうりが振り返る。

「あの、ありがとうございました。ヒール高いの、慣れてなくて」

 頭を下げるとちょっと驚いたようで笑うのを止めたけど、うん、と頷くとシートに座ってベルトを締めた。