「ハル!? 勝手に入っていいの?」
部屋に入った遥は戸惑う杏から手を離して、どこからか救急箱を取り出してきた。
杏を無理やり椅子に座らせると、彼はその足元にしゃがみ込む。
「お前、バカじゃねぇの?」
「何よ、急に。__っ!」
何の前触れもなしに彼が左足に触れ、奔る激痛に杏は息を詰まらせた。
「ほら、こんなに腫れてるのに。
もう歩くのがやっとなんだろ?なのにどうしてさっきの受けたりしたんだよ?」
彼女の足元で遥が杏を見上げる。
怒りの表情を浮かべる彼に、杏は驚きを露わにした。
「……気づいてたの?」
「当たり前だろ。何年一緒にいると思ってんだよ」
彼の言葉に、杏は目を伏せる。
口元がわずかに笑っていた。
「一宮に、傷つけられたのか?」
「ううん。私のミスよ」
那乃から逃げるように城を走っているうちに、足を挫いてしまった。
那乃の所為ではない。
「こんな状態でもう一曲舞うなんてできないだろう?俺が一緒ならフォローもできるけど、一人でなんて……」
杏は緩く首を振る。
きっと、こうやって遥に頼ってばかりだから、他人の思惑に振り回されるんだ。
「ちょうどいいわ」
疲れたような表情で、杏はそう言った。
それに、遥は目を剥く。
「ちょうどいいって、お前……。分かってんのか!? 下手したら一生舞えなくなるかもしれねぇんだぞ!?」
足を挫いた程度ならまだ良かった。
それからすぐに手当てをすれば良かったのだ。
しかし、彼女はその足で裕と一曲踊ったのだ。
それすらも無茶な行為だったのに、更に無理を重ねるなんて。

