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「まったく、なんて格好をしてるんです。
ほら、ドレスを脱ぎなさい。それから、これをお飲みなさいね。落ち着くわ」

杏を抱えた侍女は、控え室の一室に彼女を押し込めると、手際良く指示をした。
思考が働かないので彼女の言う通りに動くものの、いちいち動きがゆっくりな杏のドレスを強引に剥ぎ、下着姿の杏に暖かいカップを渡した。

杏は椅子に腰掛けてその温もりを感じる。
そこで、彼女はやっと、手が悴んでいることに気づいた。

暖房が入れられ暖かい部屋だが、下着姿の杏にふわりと毛布が掛けられる。

「こんな寒い夜にこんな薄着でいるなんて、風邪を引きますよ。もう、こんなにも冷え切って。寒いとは思わなかったの?
まったく、殿下も殿下だわ。こんなに凍えている婦女を見れば上着の一つくらい……」

ぶつぶつと、侍女の独り言は続く。
彼女の凄いところは、口が動いていながら、手は動きを止めることなく、ドレスの汚れを確認し泥を叩き落としているところだ。
幸い、ドレスを引っ掛けて破いてしまったところはなかったようで、侍女が裁縫用具を引っ張り出すことはなかった。

杏はそれを横目に見ながら手の中のカップを持ち上げ、お茶を一口飲んだ。
ハーブの良い香りが鼻を擽り、熱い液体が喉を通る感触を味わう。

ふう、と杏は息を吐いた。
同時に身体から力が抜ける。

ツキリ、と左足首が痛んだ。
杏は顔を顰める。
痛みはそれほどではないけれど、これから裕の相手を務めるのに支障が出ないとも限らない。

失敗した……。

そのうちに背後に人の気配を感じると、髪を結っていた紐が解かれ、髪を櫛で梳かれた。

「殿下はあんたのこと、気に入ったんだねぇ」

感慨深そうに言われた言葉に、杏は苦笑する。

「いいえ。私は殿下に……嫌われていますから」

本当は憎まれているのだけれど、それを口にするのは憚られた。
けれど、侍女は声を立てて笑った。