「でも私、もう頑張れないんだもん。一人じゃ頑張れないの。
ずっと、遥に頼ってばかりだったってことに気づいたの」

でも、その支えを失ったら、もう一度立ち上がることが怖くなった。

よりによって、あなたに背を向けられてしまったから。

今はあなたに会うだけで涙が出そうになる。
あなたが私を気遣ってくれるたびに、心が重くなっていく。

遥に大切な人が居ることすらも気づかないくらい、ずっと甘えていた。

だからもう、これ以上は怖いよ。
あなたを頼って、あなたに甘えて、あなたの一挙一動に傷つくことが。

いっそ突き放してくれたらいいのに、と思う。
そうしたらもう期待しないで済むから。

それなのに、あなたはまた手を差し伸べようとしてくる。

その中途半端な優しさが、更に傷つけることに気づかないで。

傷つくことに臆病な私は、もうあなたの手は取れない……。

「いいよ、頼って。頼ってくれるのは嬉しいから」

杏は懸命に首を左右に振った。

「ダメだよ、私もう頼れないの」

きつく閉じた目尻から涙が頬を伝う。

甘い言葉に、弱っている心は簡単に崩れそうになる。

目の前に立つ彼に指を伸ばしてしまわないよう、拳に力を入れた。

「なんで?」

遥も、杏に手を伸ばさないよう自制していた。
今すぐにでも抱き締めたい衝動を堪える。

ぼろぼろに傷ついて泣く彼女は、触れたら崩れてしまいそうだった。

「なあ、杏。何があった?」

ひどく優しい声音に杏の肩がびくりと跳ねる。
口を開いたり閉じたりを繰り返して何かを言おうとするが、どれも声にならなかった。

やがて、彼女は顔を両手で覆って首を横に振る。

「ごめ、なさ……。
まだ、言えない……っ」

上擦った声。

こんなにも傷ついている杏に、何もしてあげられない自分が、悔しかった。

「うん。
……待つよ。杏が話せるようになるまで待つから、あんまり考えすぎんな」

一度マイナス思考になると、世界全てが敵に見えてくる彼女のことだ。
あまり独りで考えすぎるのは得策ではない。

遥は腰を屈めて、杏の顔を覗き込んだ。

彼女は涙の溢れる瞳で彼を見つめ、一粒の涙を頬に落として、わずかに頷いた。