闇夜に笑まひの風花を

ふらふらと足元が覚束なくて、ついに路上の石に足を取られて転ぶ。
膝と掌が擦り切れる。

痛い。

けれど、こんな痛みよりも、心の方がずっと痛かった。

杏はその場に膝を立て、顔を埋める。

涙は、枯れることなく膝を濡らす。

痛くて痛くて、どうしようもない。

いつもは、泣いてると遥が来て抱き締めてくれたのに。

思い出して、また心が血を噴き出した。

違う。
あの腕は、私のものじゃない。

あの、声も匂いも笑顔も何もかも。
私のものじゃ、なかった……っ。

彼の腕の中の心地良い居場所は、私の特権じゃなかった!

彼が優しいのは、私だけじゃなかった !!

「ああっ、ああ!」

はる、ハル、遥……。

『じゃあ、もし遥くんが杏の誘いを断って他の女の子と一緒にいたら、どう思う?』

あんなことを考えたから、罰が当たったの?

私が遥を一人占めしてたから、神様が怒ったの?

__どうして私、こんなに傷ついてるの?

どうして私、涙が止まらないの?

『ねぇ、杏はさ、遥くんに恋愛感情ないの?』

__……私、遥に恋してるからなの……?