しばらく笑い合った二人はベッドの上に腰掛ける。
ペンダントは鏡台の上の小物箱に入れて見えなくした。

まだ夕食には早い。
幾つか雑談をしていると、杏は不意に思い出した。

「あ、そうだ。
えとね、ひと月半後に舞踏会があるの。
ハル、一緒に出てくれる?」

一月半後は、美しい照葉の季節。
毎年、この時期に開かれる舞踏会と言えば、一つしかない。

「それってあれだろ?舞姫の」

うん、と杏が頷く。
途端に遥の表情が晴れた。

「じゃあ、選考受かったんだ!
ったく、杏 何も言わねぇんだから……」

そして、遥は拗ねたように、ぶつぶつと小声で不平を漏らす。
その様子が可愛く思えて、杏は声を立てて笑った。

「ごめん。でもハル心配性だから」

選考が近いなんて話せば、家事は全部俺がやるから舞って来い、と言いかねない。
舞うことは好きだけれど、缶詰にされると気が滅入る。

笑われたことでさらに拗ねた彼だったが、杏の笑いが止まった頃、膝を叩いて勢いをつけ、立ち上がる。

「杏が頑張って手に入れた枠、ふいにするのはもったいねぇ。
杏のパートナーに俺じゃ力不足かもしれねぇけどな」

彼女を振り返って言う遥が快く引き受けてくれたことが嬉しくて、杏は満面の笑顔を浮かべる。
そして立ち上がって、彼の瞳を見つめた。

「ううん。ハルが良いの。
遥じゃないとダメなんだよ、私」

真摯な瞳。
はにかんだ笑顔。

遥の鼓動が音を立てた。

視線が絡まる。

遥の伸ばした手を、杏は笑って頬に導く。
杏は遥の首に腕を回し、力を込めて引き寄せた。

身体が密着する。
杏は背伸びをして遥の肩口に顎を載せ、耳元でくすくすと笑った。

くすぐったい。

そんなことを思いながら、遥は彼女の背に腕を回した。

ご機嫌な杏に、帰ってきたときの不安定さは見えなかった。