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杏はふう、と溜息を吐いた。
気が重い。
早く遥の声が聞きたい。
彼に抱き締めてほしい。
幼い頃から馴染んでいる彼の匂いは、心地良いから。
けれど、まだ遥が帰って来るには早い時間。
家の中に居ても鬱々としてしまうだけだから、彼女は夕飯の買い出しに出掛けた。
商店街を歩いていると、不意にドレスの専門店に目が止まる。
ウインドウには青、桃、白、若緑……と様々な色が並んでいたが、赤は一つも見当たらなかった。
それもそのはず。
薔薇が王家の紋章に組み込まれているため、赤色は王家のみしか着ることはできない。
杏は先ほどまでの採寸を思い出した。
採寸は、大雑把にあちこちを測って、大雑把に切った布を着せられた。
舞いにくくないようにスカートの衣は軽くしてもらえるようにし、腕も動かしやすい形に交渉した。
靴が踵の高いものなんてもっての外だ。
けれど、採寸してもらう際には痣を隠すなんてできず、短時間で仮縫いまでしてくれた老年の侍女に見られてしまった。
真紅の花弁の痣は、まるで薔薇が散った刺青にも見える。
侍女は一瞬驚くよりも不快を示したが、さすがは長く仕えているだけあって、何も言わずに痣が隠れるように細工をしてくれた。
__この国で、赤は誇り高き色とされている。
王族でもないのにこの色を持つのは、褒められることではない。
杏はふう、と溜息を吐いた。
気が重い。
早く遥の声が聞きたい。
彼に抱き締めてほしい。
幼い頃から馴染んでいる彼の匂いは、心地良いから。
けれど、まだ遥が帰って来るには早い時間。
家の中に居ても鬱々としてしまうだけだから、彼女は夕飯の買い出しに出掛けた。
商店街を歩いていると、不意にドレスの専門店に目が止まる。
ウインドウには青、桃、白、若緑……と様々な色が並んでいたが、赤は一つも見当たらなかった。
それもそのはず。
薔薇が王家の紋章に組み込まれているため、赤色は王家のみしか着ることはできない。
杏は先ほどまでの採寸を思い出した。
採寸は、大雑把にあちこちを測って、大雑把に切った布を着せられた。
舞いにくくないようにスカートの衣は軽くしてもらえるようにし、腕も動かしやすい形に交渉した。
靴が踵の高いものなんてもっての外だ。
けれど、採寸してもらう際には痣を隠すなんてできず、短時間で仮縫いまでしてくれた老年の侍女に見られてしまった。
真紅の花弁の痣は、まるで薔薇が散った刺青にも見える。
侍女は一瞬驚くよりも不快を示したが、さすがは長く仕えているだけあって、何も言わずに痣が隠れるように細工をしてくれた。
__この国で、赤は誇り高き色とされている。
王族でもないのにこの色を持つのは、褒められることではない。

