__二人が建て直したアミルダ国は平穏 を保った。
小さい頃から呪術を習わせる政策も うまく行き、アミルダ国は他国にも 侵されない国力を持つようになっ た。
王の座も安定した頃、アルファルが病 に罹った。
彼の様子がおかしくなり始めたこと に、最初に気づいたのはやはりリル フィだった。
けれど初期の頃、彼は自分も呪術師 だから、と彼女の治療を断ってい た。
アルファルは平静を装い、普通の生活 を続け、彼の体調変化に気づく者は リルフィだけだった。
彼は姉の忠告を退け、彼女の傍らに 居続けた。
そして、ある日彼女は気づく。
自分がアルファルの力を吸収している ことに。
愕然とした。
今まで、彼女が彼の力を《取り込ん》だ ことはない。
リルフィが《取り込め》るのは、死者の 力か、寄る辺のないエネルギーか、 彼女に向けられた力だけだったから だ。
『__いやぁ!!』
どんなに抵抗しても、彼の力が身体 を満たす。
リルフィはおちおちアルファルの傍に は寄れなくなった。
彼の髪に触れることもできなけれ ば、病気を治すこともできない。
無理を重ね、倒れた彼を見舞うこと もできない。
それなのに、彼の力がリルフィに《取り込ま》れていることに気づいている のに、アルファルは必ず一日に一度は 彼女を呼び出した。
彼女が行かなければ、這ってでも傍 に来る。
何度嫌だと断っても、彼は呼び出す ことをやめなかった。
そして、気づいた。
彼が、リルフィに《取り込ま》れること を望んでいることに。
『やめてっ、アルっ!そんなことし たら死んじゃう!! ちゃんと自分を 持ってよ!これはあなたのもので しょう?』
『姉さんにあげる。僕の力、姉さん が役立てて……』
アルファルは憔悴していた。
いくら呪術を使おうとも、もう治せ ないくらいに身体が弱っていた。
彼はもう助からない。
いくら否定しても、予感が消えるこ とはなかった。
『嫌よ、いや!! 私にあなたを殺させ ないで……っ』
『姉さんの所為じゃない。僕が馬鹿 なだけだから……。 僕が死んでも、ずっと姉さんの傍に 居たい。だから貰って。僕の形 見……』
ずっと一緒にいた姉弟だった。
二人だけで生き抜いてきた。
それでも、別れはいつか必ず来るは ずだった。
どちらかが先に死ぬことは分かって いた。
死ぬときまで一緒というわけにはい かない。
__分かっていた、つもりだった。
けれど、アルファルが亡くなってから 彼女は我を忘れ、死に物狂いで蘇生 の禁術を発明し__施行した。
赤黒い、月の宵だった。
生き返った彼に遺されたのは、リルフィの亡骸とペンダント、そして子 供が二人と王位だけだった。
__姉に与えた力は戻らなかった。
彼は、それだけは胸を撫で下ろして いた。
リルフィは風のない のどかな風景 に閉じ込められ、波の立たない水面 からずっと見ていた。
彼の慟哭を。
彼の人生を。
そして、多くの人の死を。
遺した彼女の子供はアルファルが後見 人となり、一人は彼の後を継ぎ、も う一人は医術の道に進んだ。
彼が寿命を終える前にリルフィは始 祖と崇められ、彼女の血族こそが王 と認められた。
彼女の血は大切に保護され、近親者 で婚姻が繰り返され、彼女を苦しめ た体質は消えることがなかった。
……杏色のような淡紅の瞳の子だったと いう。
一方、医術に進んだ子供は王家のし がらみから逃れ、新しい血が混ざる ごとに、世代を追うごとにリルフィ の体質は薄れていった。
……リルフィによく似た、赤茶の髪毛を 持つ子だったという……。
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