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__リルフィとアルファルは二人だけで生きてきた。
リルフィの力は強大で、彼女は天才だった。
それ故に彼女は迫害を受けた。

天つ才は馬鹿と紙一重。
彼女の発想はいつも突発的で、一見奇妙なものに大人 たちには見えた。

そんな姉を支え、常に傍に居たのが弟のアルファル だった。

リルフィの力は年々増幅していった。
それは、彼女の体質が原因だった。

《取り込む》こと。
他人の力やエネルギーを《取り込》んで自分のものに すること。

それが、彼女の体質だった。

同じ体質をアルファルも持っていたが、こちらは彼女よりも顕現が弱く、うまく制御できていた。
リルフィは呪術に関しては天才だったが、力の制御で 手一杯で体質を制御することはできず、不本意に力を 増幅させていった。

やがて、二人はアミルダ国を建て直した。
その頃にはリルフィの強大な力を恐れて、彼らに逆ら おうとするものは居なくなっていた。

そしてリルフィは、本当の自分をアルファルにしか見 せることはなかった。

『アル、見て。星が綺麗よ……』

彼の前だけで、彼女は普通の少女になった。
頬を染めて空を見上げ、その美しさにはしゃぎ、見惚 れる……そんな女の子。
赤茶の長く伸ばした髪が、風に揺れる。
深い紺の空に輝くその髪毛。
ひどく美しく幻想的な光景にアルファルは目を細め る。

『他の人たちの前でも、そういう風に笑えば良いん だ。いつもの高圧的な口調とか態度とかやめてさ。そ したら、姉さんを恐れる人なんて居なくなる』

リルフィは臣下たちの前では男口調を通していた。
本心を押し隠し、決して笑わなかった。
小娘だと舐められないためだ。

けれどそれを間近で見るアルファルは、彼女の本当を 自分しか知らないことに優越感を覚えるとともに、恐 れられ孤高の存在になりつつある彼女を寂しく思うの だ。
昔の迫害の影響で自分以外に心を開こうとしない姉 が、心配になるのだ。

『良いのよ、私は。あなたが傍に居てくれるだけで』

アルファルを振り向き微笑む彼女は、まるで月の精のよう。
星明かりに、彼女の胸元でアレキサンドライトが煌め いた。

リルフィは闇夜に透ける彼の髪に指を絡ませる。
彼女はこの色が好きだった。
生まれてからずっと、いつも傍にある色。

瞳の淡紅が甘く蕩けた。

『探していたの。
草を掻き分けて。
あなたがどこにも居ないから。
あなたが居そうなところも
探してみたわ。
だけれど、あなたはいつだって
私の隣に居たから。
分からないの。
見つからないの。
ねえ、あなたはどこ?
急に私の前から消えて
どこに行ったの?
私はあなたを見つけられない。
あなたが私を見つけてくれたから。
ずっと傍に居たのに。
ずっと傍に居たから。
あなたを探して、見失った私。
見つけてくれるのは、
いつだってあなた』

リルフィの唇から零れ落ちる唄。
瞳は甘く細められてアルファルを見 つめる。
指が梳く琥珀の髪の毛から光が零れ る。
彼女の唄に誘発された輝き。

アルファルは笑みを浮かべて耳をす ませた。
彼女の声は耳に心地良い。
リルフィが急に唄い出すのはいつも のことだった。
感じたままに唄にする。
それが常だから。

同じ色の瞳が囁いた。
舞ってみる?と。
そんなことをして、リルフィの指か ら逃げたら怒るのは、彼女の方なの に。

アルファルは動かなかった。
彼女の唄に身を任せる時間も好きだ が、今は彼女の声に耳を傾けていた かった。

『空を見上げたの。
心が寂しくて。
私を照らす光が痛いから。
どうせ照らすならあなたを
見つけてくれれば良いのに。
でもね、光が教えてくれたの。
そこに輝く星々が。
そこにあなたが居ることを。
私の傍に居ることを。
夜空に輝く金の光。
宝石箱をひっくり返したような空。
そこで輝くのはあなた。
私の傍で引き立てるように。
いつだって支えてくれる温かい輝 き。
ずっと傍に居てくれた。
私が見失わないように。
だから、私は見つけたわ。
あなたが私に教えたから。
ここにいるよ、と囁いて』

リルフィはアミルダ語で月の意味。
アルファルは星を示す。

__夜空に輝く、二種の光。