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「芽依さんに、プレゼント」

朝賀も無事に終わったその夜。
怪我人も病人もなく、ほっと息をついている医術団に杏がひょっこりと顔を出して、何やら白い紙に包まれたものを渡してくる。
仕事の手を止めて受け取った芽依はその中に鉄色の髪が一筋と見知らぬ名前が包まれていたのを見て、怪訝に彼女を見上げた。
説明を求めたその唇は、しかし、声を出さずに動く。

それが何を示しているのか、心当たりのあった芽依は息を飲み、青ざめた。

あなたなら、分かるでしょう?

淡紅の瞳は雄弁に語っていた。

「でも、杏さん、私はもう……っ」

知っていた。
その唇の動きを。

分かってしまった。
彼女の意図を。

それでも。
もう、遅い。

その白い包みを押し返そうとする彼女の手を、まるで包み込むようにして、杏はそっと宥めた。

「術を使うかどうかは、あなたの好きにすればいい」

けれど持っていて、と言われて、芽依はただ呆然と去っていくその背を見送った。


それから、数日もしないうちに、また芽依に客人が訪れる。

「こんにちは。あの、芽依さんっていらっしゃいますか?」

地味めのドレスを身に纏い、慣れない様子で顔を出したのは、鉄色の髪と葡萄色の瞳の少女。
年は杏と同じくらい。
といえば、芽依の2、3歳下。

「____っ!」

その姿を見た瞬間、芽依は息を止めた。

「あの、杏が____私の友達がお世話になったって聞いて、代わりにお礼を……」

「……っ、」

芽依はたまらず目に涙を溜めた。
思わず口を掌で覆い、信じられないように見つめる芽依に、少女はまた声をかける。

「あの?どうされ____」

「結香っ!」

涙に濡れた声でその名を呼び、芽依は少女を抱き締めた。