大きな城でただ一人、闇の中で慟哭していた末の王子。
孤独を知らず、寂しさに震えていた。

父に愛してほしいと。
兄のように自分も、と。

どうして自分は愛してもらえないのか、幼い彼には分からなかった。
成人した今でさえ、はっきりとは分からない。

それでももしかしたら、と半ば諦めながらも期待して、精一杯の虚勢と努力の結果が楽士だったのだ。

「王家は兄さんが継ぐ。俺は不要だ」

ならば何故、父王は愛せぬ第二王子を産ませたのか。

要らぬのに、愛されない王子は、わずかな可能性にすがって、得意なところを活かすように生きるのだ。

「君は僕を救ってくれた…真っ暗な世界から…」

だから、俺は君を憎めない。
それは、俺が臆病だからだ。

父上の代わりに、母上はたくさん愛してくれていたけれど、いつも傍にいてくれたのはアンジェだった。
孤独を教えてそれを埋めてくれたのは母でも玲香でもなく、アンジェだった。

けれど、当の彼女は首を左右に振るう。

「ばかね…。
あなたは、ばかだわ…」

ほろほろと、杏色の瞳から涙をこぼしながら。

遥は彼女を抱き締める。
壊さないように、そっと。

「うん。」

だから、___________。

言葉にできない想いを、精一杯込めて。

二人は抱き締め合う。