前回と同じようにドレスに着替えさせされ、王子の前に召し出された杏。
一度目と同じように王子は長椅子に腰を掛けていて、部屋には側近も護衛もいなかった。

「お前の通っている学校は、あの聖華学園だと聞いたが。
お前、舞踏会に出れるのか?」

杏は、まさか王子がそんなことを訊くとは露とも思わず、一度瞬く。
警戒していた身体から余分な力が抜けた。

「はい。
先日の選考で参加できる花姫が選ばれました。私もその一人です」

王子はその返答に笑みを浮かべる。

聖華学園と言えば、舞姫養成学校の中でもトップクラスの実績を誇り、何人もの舞姫を育てた名門だ。
そこに入りたがる者は数多だが、入学できる者は限られ、そこを無事卒業したということだけでも十分な名誉と言われる。
舞踏会の参加人数はもっと増やしても構わないと言っているのに、わずか十名ほどしか参加させないことで有名の激戦区。

それを勝ち上がるとは、面白い。

「上等だ。どれほどの腕前か見てみたいものだが……」

王子はそこで杏を一瞥し、苦笑した。
最初の振る舞いの所為か、どうやら舞ってくれと言って素直に聞くような心情ではないらしい。
命令すれば聞くだろうが、そこまでしなくても機会はある。

「当日の楽しみに取っておくか。
知っているだろうが、舞踏会は私も参加する。見苦しくない舞を見せてくれよ?」

王子が流し目で微笑すると、彼の前で杏はドレスの裾を持ち上げて一礼する。

「必ずや、殿下のお気に召すものをご覧に入れましょう」

その仕草はひどく洗練されて滑らかだ。

なるほど、花姫に選ばれるだけのことはあるらしい。

「さすがは聖華学園の生徒だな。
先日は礼の一つもせずに突っ立っているから、礼儀の知らない娘かと思ったが、ちゃんとできるじゃないか」

その言葉に、無表情を保っていた杏がムッとするが、非礼を働いたのは確かだ。
彼女のポーカーフェイスを崩せれたことに気を良くして、王子は長椅子から立ち上がった。