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酷い頭痛がした。
身体は怠く、心がひどく重い。

無理やり目を開けると、白い天井が眩しかった。
こめかみに涙が伝う。
ぼんやりと天井を見上げた。

頭が枕に埋まっている。
身体の上に柔らかな布団が乗っている。
軽くて暖かい。

ああ、私は今ベッドに寝ているのね。

働かない頭を動かして、ゆっくりと状況を理解していく。
痛みが思考の邪魔をする。

いつ、ベッドに入ったんだっけ?

考えて、この感覚が懐かしいものだと気づく。
最近はベッドで寝てなかった。

……あれ?
じゃあ、どこで寝ていたの?

思い出すのは、疲れた身体と消えゆく意識。
腕の下の固い感触。
冷たくて。
起きると関節が痛くて。
それは、無理な体勢で眠っているから。

ずっと同じ格好のままだから。

そこまで思い出して、杏はがばりと身を起こした。
痛む頭に顔を顰め、目を眇めて部屋を見渡す。

知らない部屋だった。

幼い頃に寝起きした部屋でもないし、十三年間暮らした自分の部屋でもない。
王と王子の三人しか居ない後宮に与えられた部屋でもなければ、離宮の自室とも違う。
一度だけ眠ってしまった裕の部屋はもっと広かった。

白い天井、白い壁。
清潔なシーツ、ベッド。
それから、匂うのは消毒薬のような。

杏が自分の掌に視線を落とすと、それは思いの外 大きかった。
視界の端に緑の宝石が映る。

思考を邪魔していた靄が晴れていく。
ペンダントに指先で触れた。

今、私は十九で、城に戻ってきているんだ……。

どうして戻っているのかも、記憶が途切れるまで何をしていたかも思い出した。
杏の表情に寂しげな色が浮かぶ。

ここはおそらく病室だ。
きっと呪術師の誰かが見つけて取り計らってくれたのだろう。

指先がペンダントを弄る。
重く沈む心を持て余して、深く息を吐き出した。

アレキサンドライトが深紅の痣の上で踊る。