__ふっ……と、塔から漏れていた光が見えなくなった。

見上げたそこには、ただ深い闇が広がるだけ。
ぽつりと浮かぶ赤黒い月は、次第にその姿を光り輝かせていった。

「__っ!」

杏は、彼女は一体どうなった!?

思わず駆け出そうとして、身動きを奪われたことを思い出す。
暴れても仕方ないことは知ってしまっているから。

キッと、眦を吊り上げて眼前の男を睨む。
絞り出した声は、怒りに震えていた。

「俺が……俺が入ったらダメだと言うなら、お前らが行って確かめて来い。
杏の様子を見て来いよ!」

「王子、私どもも立ち入りは許されていません。入れるのは、呪術師のみです」

「だったら!!」

イライラする。

彼女の何を恐れる?

あの子は、恐いものなんかじゃない。
強くて、優しいただの女の子だ。

冷静を失わないその態度が癇に障る。

「至急そいつらを連れて来いよ!父上のイカレタ命令を忠実に聞いていれば良いだろう!? 腰抜けどもが!」

イライラする。

こんな馬鹿げた命令を下した父にも。
そんなものに従っている犬にも。
それを受け入れた彼女にも。
それを突き破れない、この俺にも。
何もかもが。

未だ動かない奴らに、早くしろっ!!と怒鳴る。
裏返った声で返事があって、慌てた様子で去っていく気配を背後に感じた。

遥を羽交い締めし、入り口の前に立ち塞がる男たちは、動かない。

心が、最悪の事態を想像して、ヒヤリと冷える。
溢れる涙は止められない。

怖い、と子供のわがままのように叫ぶしかできない俺自身に、吐き気がする。

どうしようもない、やり場のない思いを、叩きつける。
理不尽だと分かっていても。

ここに残った二人の男たち。
こいつらは、アンジェの存在を知っているから。

「杏に何かあったら、お前ら絶対に許さない!!」

それは涙の滲んだ声で、震えていて、ただみっともないだけだった。