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窓辺から、赤黒く蝕まれる月を見つめていた。

いつかも、こんな月を見たことがある。
あれはいつだったか……と思い出そうとして、忘れてしまったことに気づいた。

記憶力は良いつもりなのに、と苦笑する。

そのときだ。

見上げていた月の向こう。
背の高い塔が、光っている。

遥はすぐに立ち上がり、部屋を飛び出した。

あれは北の塔だ。
杏が囚われているところだ。

何があった、杏!

心を駆り立てるのは恐怖だ。

喪うことが怖い。
彼女を、喪うことが。
怖くてたまらない。

必死に駆けて、足を動かして。
塔の下に着いたときに、咎められた。

「王子!遥王子!!」

声だけだったら振り切れた。
けれど、塔の監視をしている黒づくめの男たちに腕を掴まれた。

「離せ!」

「お戻りください、王子!
あなたは、立ち入りを禁止されています!!」

そんなことは分かっている。

「塔に入ってしまえば、あなたもただでは済みませんよ!?」

だから何だ。
自分の命のために、彼女を見殺しにしろと!?

「ふざけんなっ!!」

遥は腕を振り離した。

けれども、男の一人が塔に上がる入り口を塞いでいる。
おまけに、後ろから遠慮なしに羽交い締めされた。

「どうぞ、落ち着かれませ!」

落ち着けだと!?

「馬鹿を言うな!!」

彼女は、俺たちのために身を削っているんだ。
それなのに、その彼女に何かあったかもしれないのに、どうして落ち着いてなんていられる!?

嫌だ、イヤだ、いやだ!

彼女が泣いているかと思うだけで、
彼女を喪ってしまうかと思うだけで、
気が狂いそうになる。

「杏っ!!」

塔の下から、塔を見上げて、叫ぶ。

光は、まだ収まらない。

「離せよっ!!!」

怖くて恐くてたまらない。

なあ、俺はどうすれば良い?

どんなに暴れても、男たちは遥を離さない。
どんなに叫んで脅しても、男たちは怯まない。

何をしても、どんなに頑張っても、彼は彼女のところに駆けつけられない。

風が通り過ぎて、頬が冷たい。
涙が頬を濡らしていたことに気づく。

「アンジェ!!!」

頼むから、応えてくれ。

俺の声が聞こえるなら、応えて。