「杏、新年までは一ヶ月もありません。なるべく早めにお針子が顔を出すでしょう。
新年の式まで謹慎を解く。王子はそう仰っていました。楽団とも打ち合わせをしろ、と。
それから、遥王子からこれを。楽団のスケジュール表だそうです。
あと、去年までの舞姫たちの部屋にも挨拶を、と」
杏はやらなければならないことをザッと記憶して、楽団のスケジュールに目を通す。
そして、瞑目して予定を組んだ。
導き出されたのは、わずかな時間。
「晃良さん、式の十日前にもう一度呼びに来てください。
お願いします」
それまでには、どうにか方針だけでも見つけておかなければならない。
時間が失われるのだ。
その間にも、翡苑と琳は準備を進めるだろう。
あまり、式のために時間を割くわけにはいかない。
もしかしたら、それが王の狙いかもしれないと、そんな歪んだ考えが一瞬脳を掠めた。
杏が示した日数に眉を顰め、何かを言おうとした晃良だったが、強い意志を宿した淡紅色の瞳に溜息を零すに留めた。
「分かりました。十日前ですね?
__必ずや迎えに上がりましょう、姫」
そうしてしゃがんだ晃良は杏の手を掬い上げて、その指先にキスをした。
それでも、彼女の纏う雰囲気が柔らかくなることはない。
晃良は苦笑して彼女の頭を撫で、今日と昨日の皿を持って部屋から出て行った。
杏は簪を胸に抱いて、空を仰ぐ。
皮肉にも、空は笑っていた。

