闇夜に笑まひの風花を



「ああ、そういえば、裕王子から伝言があります」

晃良は唐突にそう言った。
そして、ローブの内に手を入れて取り出したのは、舞姫の証。
杏があの日受け取った、薔薇と羽の簪。

どうぞと微笑まれて手渡されたそれを、杏は両掌で包み込むように受け取る。
視線で尋ねると、晃良はくしゃりと杏の頭を撫でた。

「新年が明けた朝賀のときに、その年の舞姫が紹介されます。秋の舞踏会がオーディション、新年が披露宴といった感じだそうです。
そこに杏も参加するように、と仰っていました」

驚いている彼女に晃良は、ちゃんと伝えないなんてお人が悪い、と苦い顔をした。

けれど、みるみる杏は泣きそうになる。
簪は、既に王に奪われたものだと思っていた。
舞姫の称号なんて、とっくに剥奪されたものだと思っていた。
けれど、証はここにある。

新年のことは伝えなかったのではなく、言えれなかったのだと分かる。
そして、彼が参加しろと言うならば、正式に参加しても良いのだ。
王都から遠くて秋に見に来れなかった貴族たちや国民の前で、胸を張って舞姫だと、正式に選ばれたのだと示しても良いと、許してくださった。

それが、嬉しくて仕方がない。

今までどんなに努力をしても、才能だと一蹴された。
それを、今度は呪術を使ったなどと貶められたのだ。
あのときの悲しみと落胆は計り知れない。

けれど、報われても良いと仰ってくれる。
これを手に入れたのは実力だと、
舞姫たるに相応しい誇りを持っていると、
認めてくれた。

それが、嬉しくてたまらない。

このまま泣き崩れて叫んでしまいそうなほど。

しかしそれをしないのは、手放しで喜べる状況ではないからだ。