「……それから、芽依さんはどうしたの?」
杏がおそるおそる聞くと、晃良は影のある微笑を浮かべた。
「どうもしません。
優しさと思い遣りに溢れた治療で、芽依の視力は回復しました。今は、医療団に加わって働いてますよ。
呪術は二度と使わないでしょう。そして離宮に近寄ることも、僕たちの前に姿を現すことも二度とありません」
最悪な事態を免れた結末に、杏はとりあえずホッとした。
けれど、すべての発端は、やはり杏に違いなかった。
彼女はまたズシンと心が重くなるのを感じた。
胸に溜まっていく鉛は、一生取り除かれることはない。
それは、罪の重さ。
更に表情が曇った杏に気づいて、晃良は慌てた。
「でも、僕は芽依みたいな家柄はないし、僕が家から出ることで国から補助金が貰えて。なかなかに大変な暮らしだったから、むしろ感謝しているくらいです。何しろ、衣食住付きですからね」
彼は戯けて笑ってみせた。
杏はそれに苦笑を返す。
「晃良さん、どうして芽依さんの話をしてくれたんです?」
彼女は笑った。
それはどう贔屓目に見ても苦笑だったが。
たとえ彼の話が杏を追い詰めても、お節介だったとしても、彼が何の意味もなしに話したはずがないことくらい分かっていた。
そして、その理由にも彼女は勘づいていた。
だから苦く笑ったのだ。
晃良はふざけた笑みを消した。
一度頭を掻く。
「あなたも、芽依のように何かに囚われている気がして。一つの考えというか、執着みたいなものに。
あまりにも追い詰められた後では、きっと僕の台詞は聞いてもらえないだろうから」
おそらく、晃良は芽依の一件でかなり自己嫌悪に陥ったのだろう。
だから、似たような杏のときには同じことをしたくないと思ったのだろう。
「あまり、根を詰めないでください。話とか相談とか愚痴とか、僕で良ければ何でも聞きますよ。
研究が行き詰まったときは、ゆっくり話しましょう。心を落ち着かせると、意外に良い案が浮かぶこともありますし」
そう言って笑いかけられ、杏は目を伏せて感謝の台詞を述べた。
「…………ありがとうございます」
それが、ただの自己満足だったとしても。
礼を言う以外の行動が分からなかった。

