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楽器を掻き鳴らす手を止めて、遥は窓から空を仰ぐ。
そこで輝いているのは、数日後に満月を控え、日々太っていく小さな月。

暗闇にぽっかりと浮かぶ、寂しい月。

哀しい、光景。

『どうして?』

その月に昔を思い出して、目を細めた。
蘇るのは、幼い自分の声。

『どうしてちちうえは、にいさんとおなじように、ぼくにやさしくしてくれないの?
ぼくがいつもあそんでるから?
だったら、ぼくががんばったら、あたまをなでてくれるの?』

それは、あまりに切ない、慟哭。

闇に溶ける声。
誰の耳にも届かず、答えの貰えない思い。

月は、涙を零す幼い俺を、ただひたすらに照らし出していた。
空や世界は広いのに、俺は独りきりだと、知らしめるように。

痛い胸。
寂しい夜。
哀しい現世。

ひとりぼっちで泣くことが孤独だと、教えてくれたのはアンジェだった。

彼女に優しくして、彼女と傍にいることで、孤独を癒していたのは、俺の方。