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その夜。
杏はふらふらと廊下を歩いていた。

その瞳は、金色に輝いている。

身も凍るような寒さにも関わらず、彼女はコートやローブさえ着ていない。
それでも、彼女が寒がっている様子は見られなかった。

杏は角の向こうに何人もの護衛を見つけて、死角となる曲がり角に身を潜ませ、腕を水平に空を切った。
その途端、どさどさと誰かが倒れたような音がする。

杏は角から顔を覗かせて、護衛が守っていた扉に近づく。
兵は全員が床に倒れていた。

杏は彼らを踏みつけ、扉を押し開く。
その部屋は執務室。
寝室はその奥だ。

杏は躊躇うことなく寝室に足を踏み入れた。

その瞬間、ビリビリと空気が張り詰め、乱れ、彼女を刺激する。
杏は眉間に皺を寄せると、指を鳴らした。
それだけで、攻撃は収まる。

部屋の四隅で、何かが割れる音がした。

この部屋には防護の結界が張ってある。
それを開発し、行なったのは、杏だ。

彼女は自らの術を解き、ベッドに近づいた。
その中で健やかに眠る少年__遥。

杏は徐に彼に歩み寄るとベッドに片足を立てた。
ぎしり、とスプリングが音を立てる。

杏は更に体重を乗せ、遥に覆い被さった。

遥は、目を覚まさない。

無防備に晒された喉元。
そこに、杏は手を掛ける。

瞳は金色。
口元が彼女らしくなく、歪められた。

ぐっと力の篭る腕。

遥の呼吸が妨げられる。