「リィン、仕事に戻れ」

「何よ、いいじゃない、少しくらい」

翡苑の台詞に、琳は膨れっ面を返す。

「話したければ後で話せばいい。今は戻れ」

強い口調に、琳はしぶしぶ仕事に戻った。
部屋の中は、翡苑と杏の二人きり。

「申し訳ありません。リィンには何も話していなかったものですから。お許しください」

そう言って膝を着く翡苑を、杏は力なく見下ろす。

「……あなたは、私がどの血を引いるかも、私の記憶がないことも、知っているのね……」

「はい」

はっきりとした肯定に、杏は一瞬泣きそうになった。

「ここにアミルダの人はどれくらい居るの?」

「私と琳だけでございます。あとの者は、皆この国のあちこちから集められた者たちです」

国中から集めてこれだけの数。
それは、おそらくそれだけの者にしか呪術が使えない、ということだろう。

「私、殿下にここで働くように言われて来ました。でも、呪術って誰でも扱えるものではないでしょう?
私はここでお役に立てるかしら」

自信のない様子の杏を見上げて、翡苑は安心させるように笑った。

「アミルダの人は少なからず呪術の才があります。あなたはその中でも王家の血を継ぐ方。そのお力は私もよく存じております。
目安としては、わずか六つのときで禁術を完成できるほどだとか。ご安心ください。才は筋金入りでございます」

ちなみに、通常は禁術を完成させるためには大の大人三人ほどの力がいる。
ただし、これは自らに危険がないという条件のときだ。
自らの命を代価にするならば、大人が一人でも完成させようとすればできるのだが。