それからすぐに、一つの部屋に人が集められた。
人数は十人程度。
それが、この国の呪術師の数だった。

一番の年長者はチーフの翡苑。
そして、彼と同じくらい古株だという琳。
あとは大抵二十代~三十代の男女が半々だった。
杏を翡苑のところに連れて行ってくれた青年は晃良(あきら)というらしい。

全員が、夜色のローブを羽織っていた。

「今日からここで働かせていただきます、坂井杏と申します。たくさんご迷惑をおかけすると思いますが、どうぞよろしくお願いします」

そう述べていつものように礼をすると、あちこちから声が掛かる。
どうやら人懐こい人たちのようで、杏はほっとした。
そして杏を取り囲むように質問大会が勃発する。

その中で、琳は何故か杏を呆然と見つめていた。

やがて、翡苑の一喝で彼らは仕事に戻って行った。
部屋に残ったのは、翡苑と琳と杏だけ。

杏はずっと自分を見つめたまま動かない琳に歩み寄った。

「あの、どこか体調がお悪いんですか?顔色がなんだか……」

「__姫様……」

呆然と杏を見つめたまま、どこか熱に浮かされたように、琳は呟いた。

「え?」

「琥珀の髪、杏色の瞳……。本当に、姫様なの……?」

「リィン、やめないか」

翡苑が嗜めるが、琳は目を潤ませた。

「でも、ヒェン。姫様よ、私たちの。あなたが今朝言っていたのはこういうことだったのね。
……良かった、ご無事で」

カタカナの名前と会話から、杏は推察する。
そして、今にも泣きそうな琳におそるおそる問うた。

「あの、失礼ながら、アミルダ国の方ですか?」

「はい。お久しぶりにございます、姫様。リィン・フェルトでございます」

「リィン」

もう一度翡苑が嗜めようとするが、琳は気にも止めず、潤んだ瞳で杏を見つめていた。
それが懐かしいね、と言われることを期待しているようで、杏には心苦しかった。

久しぶりと言われても、杏には記憶がない。
初めて、悔しいと思った。