人の行き交いがある主だった建物から離れたところに建つ、離宮。
そこで、唐突にこんな話が上がった。

「ねえねえ、今日から新しい子が来るって本当?」

その一言を皮切りに、あちこちから声が上がる。

「あ、それ俺も聞いた」

「なんか、舞姫として城に上がった子らしいぜ?」

「翡苑って舞踏会出たんでしょう?今年の舞姫ってどんな子?」

「っていうか、舞ができるんなら舞一筋でいいじゃん。なんでよりによって、こっちに来るわけ?」

「なぁんかムカつくなぁ。
ねえ、翡苑。虐めても良い?」

周囲から上がった声は、最終的に翡苑に向けられた。
虐め発言をしたのは、翡苑と同じくらい古株の女。
その面白い玩具が手に入ったときの表情を浮かべる女に、翡苑は無表情を返した。

新入りが入る度に繰り返される彼女の虐めは、いわゆる度胸試しらしい。

「彼女を見てそれができるなら、俺は何も言わない」

「っへ~、珍しいね、翡苑が許すなんて。ってか、初めてじゃない?」

茶化すような声に、またあちこちから声が上がる。
それを無視する翡苑の傍に、あの虐め発言の女が寄ってきた。

「ねえ?翡苑。そういうってことは、その子を見たら私の虐める気が失せるって思ってるわけだ?
一体どんな子なの?」

まあ裕王子のお気に入りだと言えば手出しはしないだろうが、彼女は十三年以上前からここに居る。

翡苑は無敵そうな微笑を向けた。

「君なら一目見たら分かるよ、リィン」

その久しぶりに呼ばれる名に、彼女は軽く目を見開いた。