私…春也先輩に抱きしめられてる。



そう気付くのに、かなりの時間がかかった。


だって、男の人に抱きしめられる事なんて今までなくて。



こんな風になるなんて…分からなかったから。



「川澄…何ていうの?下の名前」



首筋がゾクゾクするのを懸命に堪えながら、



「せ…りなです」



そう答えるのが精一杯だった。



「芹奈、か。可愛いね」



そう言ったかと思うと、先輩はゆっくりと私から体を離していって。


そして、真っ直ぐに私の目を見てきた。



恥ずかしくて顔をそむけようとした時、先輩の両手が私の頬にそっと添えられた。



えっ……?



何だろうかと思った瞬間、ゆっくりと先輩の顔が私に近付いてきて。


気が付いたら、何かが私の唇に触れていて。



目の前に先輩の顔のアップがあった。



少し乾いている柔らかい何かが一瞬離れたかと思ったら。


今度は、湿った温かい何かが私の唇をなぞってきて。



キス…されてるんだっていう事に、やっぱりしばらく気が付かなかった。