空と、絵の具と、白球と。

「俺が見ると、いっつも1人だね」



そう言って、先輩はクスッと笑った。


その笑顔は何だか可愛らしくて、年より少し幼く見える。



「あっ、きょ、今日は、みんなもう帰って……」



極度の緊張で、言葉がしどろもどろになってしまう。


昨日も緊張したけど、今日はまた意味が違う。



だって、好きだって気付いた人と話すのは別だもん。



「そっか。川澄さんは熱心なんだね。ちなみに、それってうちの野球部?」



そう言って、先輩は私の手元のデッサンを指差した。


よりにもよって、一番見られたくない人に見られてしまった……。



「あっ、これは、その……」



まさか、『春也先輩です』と言うわけにもいかず。


私は、無い脳みそを懸命にフル回転させていた。



だけど、すぐにはいい言葉が浮かばなくて。


そのうち先輩は、あろう事かスケッチブックに手を伸ばしてきた。



「俺、絵とかよく分かんないけど。なんか…いいね、これ」



まさかの、お褒めの言葉だった。