宏介のいた場所は、私の部屋だった。

あの日から、ここだけ時間が止まっていた。

机に放り出された、アイロンや化粧ポーチがそのままになっている。

「優衣どこだよ!出てこいよ。会いたいよ。ゆい…。」

「宏介!!」

「宏介くん!!」

宏介のお母さん、裕也くん、それから私の両親と、舞子も慌てて彼を追ってきた。

「優衣優衣優衣優衣優衣優衣」
彼は…狂っていた。

あぁ…宏介。

ごめん…ごめんね。

あなたをこんな風にしたのは、紛れもなく私。

宏介が、最愛のひとが壊れていく。

その時だった。

宏介のお母さんが、暴れる彼を抱き締めた。

「辛いよね。悲しいね。可愛そうに。初めて好きなひとができて、その人が目の前で、亡くなったら、怖くなるよね。」

宏介は、必死にもがいたあと、少しずつ大人しくなっていった。

そして、急になきはじめた。

「怖いよ、嫌だよ。離れたくないよ。一緒にいたいよ。」

そこにはもう、私の知る彼はいなかった。

これが、戦いの始まりだなんて、私もそこにいたみんなも気づかなかった。