けれど、お母さんは、責めなかった。

「それが普通の親の気持ちです。きっと逆なら、私も同じことを思ったでしょう。
あなたは、いい母親だわ。
それに、あのとき歩行者信号は、青だった。
あなたの子供は、なにも悪いことはしていない。
憎むべきなのは、わき見運転をして逃げた運転手でしょ。」

私を轢いた犯人は、そのまま逃げたらしい。

警察が行方を追っている。

「ありがとうございます。」

お母さんの笑顔を見て、改めて思った。

やっぱり、私たち母子だね。

慰められるはずの人が、逆に慰めてるのって、なんか変。

母親は、子供をつれて帰っていった。

「すごいわ。私だったらきっと、あんな風に許せない。」

宏介のお母さんが、お母さんに言った。

「許してるのかな?少しは憎んでるかもしれない。だってそう簡単に割りきれないもの。でも彼女を憎むと、天国の優衣に怒られそうだもの。」

お母さんは、そう言って、力なく笑った。

怒らないよ。

お母さんが、憎しみを抱くのは、悲しいけど、私のために怒ってくれるお母さんを、怒れるわけがない。