ボールが転がる。

ひときわ強い風が吹き、ボールは進路を変えた。

必死に追いかける子供。

ボールは、子供の手から、必死に逃れようとするかのように転がり続ける。

あっ道路に出る。

同じことを考えていたのか、タタタっと駆け出す音がして、横を見ると、優衣がいなかった。
俺らの座っていたベンチから、ボールの位置は、大分離れていて、優衣はそれでも必死にボールと少年を追いかけていた。

あと少し…あと少しで手が届く。

あいつバカみたいにお人好しなんだよな。

自分が危なっかしいくせに、

危なっかしい人を、ほっとけない。

自分が困ったやつの癖に、

困ったやつをほっとけない。

ったく、アホだな。

「優衣!!」

気付くと俺は叫んでいた。

俺の記憶は、そこで途切れた。