僕は、こわいと感じた。その横で妻の顔もこわばっていた。飛行機が少し揺れるだけで、こんなにこわいと感じていた僕たちは、このまま12時間以上かけてローマへ行くのが耐えられるかとやや不安になった。しかし、今にも寝そうな僕にとって揺れそのものはあまり気にならなくなっていた。妻は、こわさから寝るしかないと考えたのか、眠りに入っていった。一眠りして、まわりが騒々しくなっていると思っていると、今度は、客室乗務員が食事を運んでいた。たくさん眠れたと思い時計をみると、飲み物が出されてからそんなに時間が経っていなかったのに気づいた。食事のメニューは、メイン料理をチキンとフィッシュのどちらかを選ぶことができた。僕は、チキンにした。妻は、ギリギリまで迷い、同じチキンを選んだ。チキン料理には、素朴なバターブレッド、野菜のシャキシャキ感があるサラダ、日本の白い饅頭が付いていた。その白い饅頭は、法事に使われるような饅頭だった。さすがに驚いたが、驚きで眠気をやわらげるようなことはなかった。しかし、チキンをかじってみると、あたたかくてジューシーで、肉汁が口に広がり、おいしさが僕たちの眠気を少しずつ和らげてくれたようだった。しかし、離陸から2時間ほど経った頃、僕たちはいつの間にかまた眠ってしまったのだ。時間が少し経ち、僕たちはふと目を覚ました。機内のモニターに映っている地図を見ると韓国付近を示していた。窓の外をみると陸地が見えはじめた。ここはどこの陸地なのかは、はっきりと分からずそのまま再び眠りにおちた。それからどのぐらい眠っていたのだろうか、僕が目を覚ましたときには、北京空港付近の陸地の上空を飛んでいた。徐々に高度を落としていきいよいよ飛行機は着陸態勢に入る。窓の外を見ても、どこに空港があるのかよく分からなかった。日本を離陸するときと同様、機長の操縦の腕はたしかなもので着陸もスムーズであり、着陸時の振動は、ほぼなかったと言っても過言ではない。北京までは比較的あっという間だったのだが、飛行機は予定していた到着時刻よりもやや遅れて北京空港に到着した。ローマ行きの飛行機の出発時刻がせまるなか、僕たちは急いで、乗り継ぎのための手続きをした。
