パスポートは、何かの拍子に僕が預かったままになっていた。お金は、スリなどが多いと聞いていたため、キョロキョロするであろう妻は危険だと考え、僕が管理していた。こんなことになるとは思いもよらず・・・。
僕は地下鉄を待つためプラットホームに立っていた。数分後に列車が来た。列車に乗り次の駅に着くと、ベンチに座っていた妻を見つけた。僕が思っていたより妻は、不安げな様子でないと思い、少し安心した。僕たちは、小さな再会を喜んだ。ちょうどこの日は、妻の誕生日だった。僕は、この事件がずっと妻の心に残っていくと思った。気を取り直して、もう一度地下鉄に二人そろって乗り込んだ。ここからの僕たちは、列車の乗り降りにやけに慎重になってしまった。トレビの泉が近いバルベリーニ駅になんとか到着した。地上へ出たが、どこにいるのか地図をみてもよく分からなかった。少し歩いてみると、僕たちと同じように地図を見て歩いている人たちを発見した。トレビの泉があると思う方向へ歩いていた。僕たちは、勝手にトレビの泉へ行く人たちだと決めつけ、静かに後ろをついて行かせてもらった。少し歩いたところで、建物に貼り付けてある、小さな看板を見つけた。「トレビの泉」と書かれていた。僕たちが勝手に決めつけた人たちは、間違っていなかった!そこからは、看板のとおりに進んでいくと、水の音が聞こえてきた。間違いなくトレビの泉に着いたのである。
その近くには、人の出入りがあるジェラート屋さんがあった。妻の目が輝いた。出発前からトレビの泉のジェラートが食べたいと言っていた妻。ここが目的地かのように吸い寄せられるように入ったことは言うまでもない。
