次に行こうとしたのは、真実の口である。地図は、コロッセオの近くにあると僕たちに教えてくれた。しかし、コロッセオのまわりをぐるりと歩き、地図が示す方向へ行ってみるもそれらしきものは見えなかった。必死に真実の口を探していたが、どうやら、地図上でみるよりも距離があるようだった。時間がなかった僕たちは残念だったが諦め、近くにあった地下鉄の駅からトレビの泉を目指すことにした。僕たちは、地下鉄でテルミニ駅まで戻り、トレビの泉に行く方向の地下鉄のプラットホームに着いた。プラットホームには、もうすでに列車が来ていたので、僕たちは仲良く手をつなぎながら地下鉄に乗ろうとし、急いだ。まず先に妻が乗車した。ここで事件は起きた。次に僕が乗ろうとしたのだが、いきおいよく地下鉄の扉が音をたてて閉まりはじめたのだ!手を挟まれそうになったのでやむなくつないでいた手を離した。すると案の定、扉が閉まってしまった。妻は列車の中から窓越しに、僕に向かって「次?」とたずねる。僕は、「次」と返すが妻は聞こえなかったようだった。妻の不安そうな泣きそうな顔が記憶に残る。不安そうな妻を乗せた地下鉄は、そのまま何事もなかったかのように先の暗い地下線路へと走りさった。僕には「次」と言った妻の声がきちんと届いていたので、妻は、次の駅で降りてくれると確信していた。おそらく妻よりはるかに余裕だっただろう。それに、妻はパスポートや1円のお金も持っていなかった。
