「のぞみがそれ作る練習始めたの、俺の為だったって、覚えてる?」



覚えて……なかった。



叶チャンはあたしの考えを見通している様に続けた。



「お袋の手伝いにいつも来てくれてて……居なくなってからは一人でも作るって言って、指切ったり火傷しながらも練習して……」




あぁ、そーだったんだ。


あたしも、初めから作れたわけじゃ無かったんだ。




玉ねぎをみじん切りにしていくと、目にしみた。


涙が浮かんだ。




「泣いてばっかいる俺に、のぞみは約束したんだ。ハンバーグ作ってやるから、笑えって。笑ってたら、きっとお袋戻って来るからって」




約束って、その事だったんだ。

だから叶チャンは、いつも笑っていたんだ。

悲しくても、苦しくても、辛くても……




玉ねぎは目にしみて、もうあたしの目からはボロボロと涙が溢れ出した。



これは、玉ねぎの所為。







「俺、馬鹿だよな。大切なモノ失うのが怖くて逃げてたら……もう、手の届かない所に行ってた……」




叶チャンの小さな呟きは、この静かな空間によく響いた。



そして、あたしの心にも。