「すぐ作るから待ってて」


こうやってウサギのエプロンをつけながら言ったのは何度目だろう。

きっと数え切れないくらい沢山ある。

だけどこの家で料理するのはホントに久しぶりで、この宝物の、ウサギのエプロンも懐かしい。




あたしが腕まくりすると、叶チャンはキッチンカウンターに肘を乗せて、何を見るでも無く視線を漂わせた。



いつもと様子の違うその視線を気にしながら、あたしは手を洗う。






料理を作り終えるまで、いつも叶チャンは自分の部屋で寝ていた。


今日は何も言わず、このキッチンに居る。





きっと、おばさんと色々話をする事が出来たのかな。


あたしも何も言わず、玉ねぎの皮を剥き始めた。






会話も何も無いこの空間。


あたしの後ろには叶チャンが居る。


蛍光灯の明かりがキッチンとダイニングを照らし、やっと点き始めたストーブが、灯油を燃やし暖かい風を送る音だけがしている。





「俺さ、のぞみが作るハンバーグ、昔から好きだった」


「知ってる」



後ろから聞こえた小さな声に、あたしは玉ねぎの皮を剥く手を止めずこたえた。