教室に入ると、叶チャンはまだ来ていなかった。


叶チャンが居ない事が、何故だか凄く寂しかった。



まだ、居なくなる訳じゃないけど、何だかこのまま、もうずっと会えないんじゃないかって錯覚を覚える。


でもあたしが席に着く頃、叶チャンはちょうど教室に入って来て、あたしは酷くホッとした。



いつも煩い教室のざわめきが、今のあたしにはあまり聞こえなかった。

あたしの目は、制服のブレザーを着た、ミディアムヘアーの黒髪、整った顔立ちの叶チャン一人しか見ていなくて、聴覚も叶チャンの低くて透き通った声しか拾えなくて、気持ちも、ただ一人にしか向いていなくて。








涙が出そうだった。


ずっとずっと見ていた人。




「叶チャン……」



そう言っていつの間にかあたしは叶チャンの元に足を進めて居て、いつの間にか目の前に立っていた。



「のぞみ、どーした?」



見下ろすようにあたしを見る叶チャンの目は、優しかった。



「今日、叶チャン家、行ってイイ?」



「……あぁ」



そんな一言だけで、あたしは胸を締め付けられるんだ。