けたけた笑う君の後ろ姿。雨が振ると、本当にご機嫌。
 翻って僕は、

「不機嫌だね。雨男は雨が嫌いなの?」

 と、からかわれる程には仏頂面だし声もあからさまに低い。どうしてこうなるか知らない訳じゃないだろうに、君は呑気に雨垂れを見つめている。

「君に会う時はいつも雨だ」
「そうだね」
「ろくな遊びも出来やしない」
「そうかな」
「先月の遊園地が豪雨の中の遭難訓練みたいになったのを忘れたのか」
「覚えてるよ」
「……そうだったな、君はあの時も笑っていた」
「あんたは暗いよ」
「知ってる」

 先月僕は君の前で半ベソをかいた。帰宅してからは大泣きした。情けなくて泣いて、途中から泣いてる事が情けなくて泣いた。どうして雨の日ばかり君を誘ってしまうのか。……というか、どうして誘った日に雨が降ってしまうのか。

「もう僕たち会わない事にしよう」
「はぁ?」
「気の抜けた返事するなよ。別れ話だよ」
「はぁ」

 君は振り向いて、やっぱりばかっぽいとしか思えない口の開き方をして、目は魚のように真ん丸かった。僕はどれ程、君のその何も考えてなさそうな所に救われただろうか。
 豪雨の中、長靴に水が入った事をさながらご褒美を貰ったかの如く報告された思い出が昨日の事のようだ。

「僕は君を幸せに出来ない」
「これまた急だなぁ」
「会うたびこれじゃ、どうにもならないよ。楽しい思い出とか作れないし。君にはもっと良い人が」
「うーん。楽しいけどなぁ」
「はっ?」
「だから、楽しいんだってば。君には雨を降らす力と、私を楽しませる力がある。安全基準スレスレの雨の中乗り込んだ、観覧車からの景色とあんたの半ベソは忘れない」
「君は強いよ」
「あんただからだよ。他の奴だったらつまんない」

 僕の心臓は変な動きをした。不整脈だ。と同時に、雨脚は一層強まった。更にタイミング悪く風が吹き込み、軒先にいた彼女は一気に濡れ鼠だ。

「ああ、ときめいちゃったの? 雨男さん」

 僕は笑う君が頼もしくもあり、怖くもある。

おわり