希祈本人は入学当時から噂になっていた"王子"の存在に、まったくもって興味がなかった。
女子高生になりたての頃、大抵の女の子は、イケメンの噂があれば覗きに行って評価し、それなり見込みがあれば話かける。
やっと受験が終わって、華の女子高生になって、あと足りないものは彼氏だ。
密かにそう思っているのが、大抵の女子。
しかし希祈は違った。
これまで通り周りと普通に接して、男子とも、もちろん女子とも普通に話した。
そういった、下心がまったくない希祈の態度に惹かれた男子はいっぱいいたが、相手が希祈だ、タイミングを掴めずに今でも誰も言えずにいる。
しかし、クールで無口な蓮が女子とのお喋りを楽しんでいる様子は、まったくなかった。
近寄り難い、少し怖い。
そう言われ、外から眺めているのが1番良い、と思った女子たちは、蓮を目で追っては黄色い声を上げる毎日だった。
まわりの皆がきゃあきゃあ騒いで、"一度でいいから話してみたい!"と言っているので、希祈は素直に、"皆の王子に話しかけられた…!"と、思わずにやついてしまいそうになっているのだ。
もっとも、無口な彼が女子に話しかけることなんて、入学してから1度もなかったのであるから、誰も希祈を信じてはくれないだろうが。

