見覚えのある影。
なるほど、とうとう幻覚まで見えてしまうようになったのか。
希祈は自分でも気づかないぐらい無意識に、心のどこかでその人を必要としていて…。
その人のことを、望んでいた自分がいて。
まさか幻覚まで見えてしまうとは…。
…でも少し、いや、かなりリアル。
希祈は、冷えきってがちがちになってしまった手で、自分の目をこすった。
当たり前だが、何度瞬きを繰り返しても、今希祈が見ている景色は全く変わらなかった。
つまり…
白い息を吐いて、手をあたためていた、影。
その人…蓮は幻覚なんかじゃなくて。
目が合ったわけでもないのに、希祈の鼓動は容赦なく飛び跳ねる。
キューッと締め付けられるような痛み。
嫌じゃないのに。
…嫌じゃないのに、今まで感じたことのないこの感情が…少し怖い。
校門には…蓮がいた。
緩く巻いた黒いマフラー。
だらしなく背負ったスクールバッグ。
そのスクールバッグでさえかっこよく見えてしまうのは、背負っている人が蓮だからなのだろうか…。
待っていてくれたんだ…。
希祈の冷えきった心の中に、暖かい何かがじんわりとしみ込んできた。
さっきまで孤独を味わい、恐怖感と寂しさに押しつぶされそうになった希祈の心に、ホッと安心感が溢れだす。

