恋イチゴ



保健室を出て、昇降口へ急いだ。
渡り廊下の窓から外を見ると、空はだいぶ暗くなってしまっていた。

昨日ちらほらと降った雪が、木の上にまだ少しだけ積もっている。
希祈はそれを見て、外はだいぶ冷えきっているということがわかると、マフラーをいつもより1周多く巻いた。


…でもよかった。
先に帰ってもらって。


希祈は、いつも一緒にいる同じクラスのゆいと奈津の顔を思い浮かべた。

希祈を支えてくれている親友のゆいと奈津は、希祈のことが心配で、どんなときも、何があっても待っていてくれた。

しかし、そう迷惑ばっかりかけてしまうわけにはいかない。
当たり前だが、自分のせいでまわりを巻き込むことは、決して気持ちの良いことではないし、ゆいや奈津だって早く帰って自分の時間が欲しいはずだ。


希祈はいつもより強がって、今日は大丈夫!と笑った。
最初は、待っているよ、と言ってなかなか頷いてくれなかった2人も、希祈が粘って、大丈夫と何度も伝えると、やれやれとため息をつきながらも、少し安心したような表情を浮かべた。

それから希祈の頭をぽんぽんと叩くと、希祈のことを心配して、何度も振り返りながら教室を出て行った。


末っ子の希祈は、やはりまわりから見ると妹のような存在で、1人っ子のゆいと、歳の離れた妹がいる奈津には特に可愛がられていた。
男兄弟に囲まれて育ってきた希祈にとっても、2人はずっと憧れていた優しいお姉ちゃんのようで、何でも話せる大の親友だった。


そんな2人にだからこそ、甘えすぎてはいけない、頼りすぎてはいけない、と思うようになった。


しかし…

やはり、いつも一緒にいてくれている人がいないと、寂しくてしかたがない。

しかも、もうこんなに暗くなってしまっている。
身体が冷えるのと同時に、心まで凍ってしまいそうだ。

1人きりで学校に残っていることに、恐怖さえ感じた。


まるで、この世界には私だけしかいないみたい…。


さっきまで感じていた蓮のぬくもりが、急激に冷やされる。
希祈は、わずかに残っている蓮の体温を包みこむように、腕を組んだ。


…ひとりぼっちって、こんなに寂しいんだなぁ…。


1人で歩く廊下は、永遠に続いているのではないかと思うくらい長かった。

その、永遠に続いている廊下を抜けて、1段1段ゆっくりと時間をかけて階段を下る。