希祈は目の前に出された手に驚いて、目をうるませながら蓮を見上げた。
ちょっとでも気を緩めたら目に溜まっている涙が全てこぼれてしまいそうで、ギュッと唇を噛み締める。
希祈は、素直に人に甘えることが苦手だ。
自分のことは自分で解決したい、自分を甘やかしたくない、という強情な部分も持っていた。
それは、希祈が小さい頃から男兄弟に囲まれて育ち、末っ子ならではの、兄たちに負けたくない、という思いと、忙しい母に迷惑をかけないよう、自分のことは自分1人でこなしていたということが根付いているからだろう。
「大丈夫だから。」
蓮は戸惑う希祈を急かした。
"早く"と言うと、希祈はハッと我に帰ったかのようにまばたきを繰り返すと、震える手で、そっと蓮の手をとった。
すると、蓮は希祈を立たせて、自分の方に引き寄せると、さっきまで希祈が乗っていた椅子に座らせた。

