「…またそれ読んでいるのー?」
玄関に着き、靴を履き替えようと目線を落とすと、ヒカルの手には一冊の文庫本が握られていた。
それは何度もヒカルの手に握られているのを見た事がある本。
「いやー、この人の座右の銘が本当に好きだから。
──人はいつだって死に向かって生きている。
──人は必ず死が訪れる。
──だからそれまでの人生を精一杯歩こう。
って、まじかっこ良くない!?」
人はいつだって死に向かって生きている…。
この名言を何度もヒカルに聞かされて、前までは、当たり前の事じゃん。としか思っていなかったのに…。
今は…心臓が苦しくて仕方がない。
冷たい外気に触れ、より一層胸が苦しくなる。
「…人はいつだって死に向かっている…、か」
「うん。俺らには必ず死が訪れる。だからそれまでの人生を精一杯一緒に歩こうな」
そう言ってヒカルは私の手を握り、満面の笑みを見せた。

