まめだらけにされて、あざだらけにされて、感覚が麻痺していく。皮膚は刺激に耐える度厚くなる。そのうち意識も麻痺していく。こんな事されるのは当たり前の事なんだって。

「ねぇ、……ねぇ。あざで俺の背中真っ黒いんだよ」
「黙ってて」

 ばしん。と、またひとつ大きな音がする。背中が痛い。ような気がする。
 彼は俺の背後にいる。こういう体勢で、俺の背中を撲るのが日課の男だ。飽きもせず手の平を振り下ろして撲ってくる。
 撲る理由なんか何だっていい。

「手のまめ潰れちゃった」
「そんなん、足りないよ」
「ん」

 何に足りないのかなんて分からない。彼が何を欲しているのなんか知らない。
 鼻声の彼の声が、俺は気に入っている。ただその声の言う事を全肯定したい気持ちだけで、曖昧な返事をした。

「足りるもんか」
「うん」
「俺は、こんなんじゃ」
「うん」
「俺はおまえが」
「うん」

 ばちん。と、またきた。油断していたせいか、さっきと痛み方が違う。
 背中と、手の平が痛い。いつもの癖で、ベッドの足を握りしめていたせいで、手にまめが出来ていたのがさっき潰れた。もう手の皮も厚くなったと思ったのに、まだまめが出来る柔らかな所が残っていたらしい。
 手を緩め、体を少し起こして、彼の様子を見遣る。
 涙目が俺を睨んでいた。この男の子供時分の事など知らないが、きっと随分なきかん気の子だったに違いない。そして成長しないまま、大人になったんだ。

「俺、あんたの事なんも知らないけど」

 上体が真っすぐに立たないまま語り始める俺は間抜けに映るだろうが、構いやしない。言う事を聞かない体を無理矢理捻って、なるべく顔が彼の方を向くようにした。