「…うっうっうっ…」
「ああ…もう分かりましたから聞きませんから」
まあ確かにあの二人なら心の底から容赦のない扱いをしそうだ。
マジの半泣きを始めた真裕父を、さすがに哀れに思った。
「ところで君…暇かね?」
数秒で立ち直ったこの人は突然そんなことを言いだして。
めんどくさそうな予感を感じた俺は、即座に返した。
「や、忙し…」
「そおかね暇かね! では少し話をしようか」
「いやだから今…」
「君のフルネームは加納夕綺くんでよかったかな?」
「はあ…。なんで知って…」
「ではお兄さんの名は、もしや加納朝陽(カノウアサヒ)くんだったり…するかね?」
「……!?」
朝陽…!?
え…いや、なんでアイツの名前が出てくるんだよ…?
まったく予想だにしない一言に、思わず目を見開いた。
長く…その名前は聞いていなかった。
そしてこれからも、聞くことはないんじゃないかと思っていた。
それだけ古くて遠い、だけど紛れもなく血の繋がった兄の名前。
「どうして…?」
普段あまり見ることのない表情でソファに腰掛ける真裕父に問いかけた。
「話せば長い。一度、十年ほど前に話を遡らねばならないが……いいだろうか」
十年前……。
俺が、俺達が。
あの女に捨てられた頃ーー。

