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「あれ。もう帰るの?」
講義が終わってすぐ立ち上がった俺を見て、そういえば名前もよく知らない女が言った。
「そりゃーさっき、真裕から電話あったし。真裕バカのこいつならなあ?」
「置いて帰るぞてめえ」
「別に連れて帰ってもらってるつもりはないね」
「ほお。じゃあそれでもいいと」
「いいわけないだろ。大体あんたの義親父のせいで俺、あんな年中春真っ盛りなとこにいるんだぞ」
「春真っ盛りてなんだてめえ」
「だってそうだろ? 自覚ないの? そこらのバカップルなんかよりイチャつきすぎ」
「俺がいつそんなことした」
「はあ? あれを受け入れてる時点で一緒だよ」
「……仲良いのかしらね…」
「ていうか、星野楓のイメージ、最近崩れてきてるんだけど」
つかこんなことしてる場合じゃねえんだよ。
あれから、病院に行ったという報告だけメールでしてきたものの、詳しい状況は分からない。
もし琥珀が怪我をしていたら、今頃あいつは大袈裟に落ち込んでいることだろう。
なんせあの人の娘だ。
そしてあの親子はそっくり。
同じような落ち込み方をしているに違いない。
「野木さん来てんの?」
「たぶん」
荷物を手にし、さっきの言い合いなどなかったかのように言葉を交わす俺達を見て、また「やっぱり仲、いいの?」と尋ねてくるいつもうるさい女。
聞こえなかったことにして、出入り口へと向かった。

