「それで、急いで駅に向かったんだけど、いるはずの彼がそこにはいなかったの。待っても待ってもその場所には来なくて……携帯電話も繋がらなくて…………」
老人は、美希の話を静かに聞いていた。
「4時間くらい待ったころだったかな。わたしの携帯電話が鳴ったんだ。画面を見ると彼のお母さんからで、嫌な予感がした。そんな予感なんてはずれればいいのにね、こんな時に限って当たっちゃうんだから」
美希は自嘲しながら鼻をすすった。
老人がそっとハンカチを出してくれ、美希は自分が泣いていたことに初めて気付いた。
老人が貸してくれたハンカチは、見た目とは違いアイロンが綺麗にかけられた純白のものであった。
「ありがとう、おじいさん。少し貸してもらいますね」
「いやいや、もう一枚持っているから良かったら差し上げますよ」
そう言うと老人は、全く同じものをズボンのポケットから出して見せた。


