そして思い出す。そうだ、1組はさっきまで自分が技術の授業をやっていたクラスだ。

今1組では、金工室で木材のラック作りをやっている。その際に木クズが制服につくといけないから、授業前にジャージに着替えてもらっているのだ。

男子は早めに金工室に入り、そこでジャージ着替える。授業が終わるとそのまま金工室に残り、制服に着替える。

女子は教室でジャージに着替えてから、男子と技術教師である水野が待つ金工室に行き、授業後はそそくさと金工室を出て教室に向かい、そこで制服に着替える。

そして、技術の授業が終わった合間の時間である今――女子たちは正に、着替え中であったのだ。

水野は慌てて相馬のほうを振り返った。

「ごめん! 俺知らなくて!」

1組の教室の中に向かって必死で弁解しているが、「いいから早く閉めて下さい!」という非常にごもっともな言葉を返され、ぴしゃりとドアを閉められていた。

「あーぁ……」

水野が思わずそう呟くと、それが聞こえたわけではないのだろうが、50mほど先にいる相馬から思いきり睨まれた。

そしてバタバタとこちらに駆けてくる。その途中でまたもや生徒に「廊下は走っちゃ駄目ですよ」と注意され、「うっさい!」と返していた。最悪の対応だ。

「水野先生! 何で教えてくれなかったんですか!」

「すみません、忘れてました」

「忘れてました、って! 俺ただでさえ生徒に好かれてないのに!」

「好かれてないってより馬鹿にされてるだけでは……」

「え?」

「ああいや、何でもないです」

「あーもう、まいったなぁ!」

そう言い相馬はしゃがみ込み、頭をぐしゃぐしゃと掻いた。一方水野は、この人もまいることがあるのかと少々驚きながらしゃがんでいる相馬を眺めていた。

ちなみにその後暫く、相馬は水野を含む沢山の人間からからかわれることとなったのだが、それはまた別の話だ。