「早く来てください、教頭が……」

そう言いかけて、絶句した。そんな水野の様子を、相馬は何故か満足げな顔で見ている。

「……相馬先生、その格好は……?」

言いながら水野が指したのは、相馬――入学式であるというにも関わらず、いや、入学式じゃなかったとしても学校に着てくるのには相応しくない、マッチョな筋肉の絵がプリントされた謎のTシャツを着ている相馬だ。

「たまたま見かけて、面白かったから買ったんですよー! どうですか?」

「……相馬先生、今日、何の日だが分かってますか?」

水野の言葉に、相馬は考え込む表情になる。そして数秒後、ハッとしたように言った。

「エイプリルフールですね! うわ、どんな嘘つこーかな!」

小学生かコイツは。いや、小学生でも入学式の日くらいは覚えている。

「入学式です!」

相馬は水野の言葉に、ポカンとした表情を浮かべた。が、すぐに事態を理解したようで、「あ! あぁ!」と繰り返しはじめた。やっとわかったか阿呆が。

「もぉー、分かりやすすぎますよ! エイプリルフールだってわかった次の瞬間に嘘つくなんて!」

……阿呆だ。ド阿呆だ。いや、阿呆なんて言葉じゃ言い尽くせないくらいの阿呆、いや、阿呆では言い尽くせないのだから、この場合なんて言えば……いや、そんなことはどうでもいい。

「エイプリールフールなんて知るか! 本当に今日は入学式です!」

「いや、だからぁ、」

「よく考えてみろこのトリアタマ!」

さすがの相馬も、水野がふざけているわけでないことはわかったようだ。そしてしばらく考え込み――顔がサっと青くなった。

「…………水野先生」

相馬は一言そう言うと、水野の顔をじっと見つめてきた。何だかよくない予感がして、目線を逸らした。

が、それは意味がなかったようだ。

「ちょっと来てくださいねッ!」

その言葉が放たれたのとほぼ同時に腕を強く掴まれ、近くの漫画研究会の部室へと無理やり連れ込まれた。

「ちょ、何すか!」

何をしようとしているのか分からずそう訊くと、「黙って!」という答えになっていない言葉を返された。

「答えてください、何する気……」

そう言い終わらないうちに、隅にある机の上に押し倒された。そして、

「お願いします、スーツ貸してください!」

…………呆れた。

「絶ッッ対! 嫌です!」

「そこをなんとかお願いしますよ! 先週も怒られたばっかなんです、これ以上ポカしたら俺どーなるか……!」

「知りませんよ、先週怒られたのはアンタの責任でしょ」

「先週だけじゃないんです、先々週も先々々週もなんです――――!