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東京都内。
某商店街に近い、住宅街の一軒家。


その朝、青太が起きたのは、5時だった。

昨夜は喘息が酷くてろくに眠れなかったが、
いつもの時間に目が覚めてしまう。

12月の早朝は真っ暗で、すぐにベッドのライトを点て体を起こした。

6畳の部屋はぼんやりと明るくなり、

窓に青太の姿を映し出す。

そこには背中を丸めてベッドに座る、
痩せっぽちで小柄な14歳の少年。

もし窓が鏡だったら、青太がもっとも嫌いな彼の青白い肌も映してしまうだろう。

せっかくの涼しげな瞳も、細く伸びた鼻筋も、彼にとってはほとんど意味のないものだった。



男らしくなりたい。
たくましくて、誰からも頼られるような男に。


青太はパジャマがわりに着ている黒いジャージのまま、

腕立て伏せを始めた。

その後一時間、色んなメニューを組み合わせたトレーニングが続く。


なるべくゆっくり、ゆっくりと…。

でないと、彼の肺は悲鳴を上げて、

心臓は止まってしまうから。


体中がしっとり汗ばんできた頃、
隣の家に面した窓から
コツコツ
と音がした。

ここは2階だが、青太は別に驚きはしない。


「コーエイくん、また窓からきたの?」


白い息とともに ニカッと笑う青年が窓の外に現れた。

窓は閉まってなかったので、青年はガラガラ開けて入ってきた。

2階とはいえその窓の下には大きな倉庫があって、
その屋根に上りさえすれば窓はすぐ近くだった。


青年は公英。大学一年生。
190センチ、90キロ近くある巨体で青太のベッドに腰掛けるとギシッと全体が揺れた。