その呼吸は、カウンターの内側で女性客の相手をしているときのように見事だった。



 リーシュコードの看板息子の微笑み。



 いつの日も相手が望む絶妙の距離感。



「なにそれ? もしかして、今さら韓流にはまってたりする?」



 玲子は小さく吹き出すと、どこかほっとしながら痛む左膝をかばって立ち上がる。



 その瞬間、栄治の右手が玲子の肘を捕らえ、強い力で引きよせた。



 バランスを崩した玲子は、目線の下でゆれる前髪に鼻と唇をぶつける。