誠が旅立ったその日に、玲子と栄治は、
鉄平から、今まで知らなかった長野の新藤家と誠との事情を聞かされていた。
誠は、30歳になる直前に、
すでに血圧の高かった伯父からあらふじに戻ってほしいと言われていたのだけれど、
リーシュコードのオープン直後だったことを理由に、決して首を縦に振らなかったというのだ。
「玲子とリーシュコードを中途半端で放り出して行くなんて、とても誠にはできなかったんだろう。
俺も、強いて帰れとは言えなかった。
脚の悪い玲子じゃ、一からよその店で修業するのは難しい。
リーシュコードを軌道に乗せるためには、確かにあのとき誠が必要だったんだ。
でも……気付いたらあっと言う間に5年も経っちまってて。
俺の一生の不覚だよ。
義兄貴があんなことになる前に、誠は新藤に帰さなきゃいけなかったんだ」
唇を噛んでうなだれる鉄平を前に、
玲子も栄治も、誠と離れるのが嫌だとはとても言えなかった。
